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「外資ファンド利回り20%のからくり」 北村 慶 著より
外資ファンドが、どうして利回り20%超を達成できるのか、その四つの秘密について詳述します。
(1)裁定取引
金融商品に関する「理論価格」が分かれば、その商品の割高・割安が分かり、取るべき投資行動---即ち、「売り」か「買い」か---が適格に判断できることになる。
「無裁定価格理論」とは、
「どんな商品でも市場価格は
いずれ理論価格と等しくなる」
という理論である。
これが、投資ファンドの理論的支柱となる、「無裁定価格理論」である。
つまり、完全な世界を想定すれば、預金、国債、株式、不動産など、どの商品を買っても、利回りが高い商品にはそれ相応の高いリスクがあり、利回りが低い商品のリスクは小さいという理論である。
「利回り20%超」の第一の秘密である。
【ご参考 →理論的支柱「無裁定価格理論」 】
(2)レバレッジ効果
「利回り20%」を実現する第二の秘密は、「レバレッジ効果」である。
「レバレッジ」とは”梃子”のことである。
”梃子の原理”においては、力をかける力点と、支える支点、さらに物を動かす作用点までのそれぞれの距離が重要だ。
すなわち、その効果は、作用点から支点、支点から力点の距離の比率を変えることにより、大きく変わる。
これと類似のことが、金融の世界でも起こる。
この場合に、作用点から支点の距離にあたるのが「手元資金(自己資本)」、支点から力点にあたるのが「借り入れ資金(負債)」だ。
ROA(リターン・オン・アセット) = 収益 ÷ 資産
レバレッジ = 資産 ÷ 自己資本
ROA と レバレッジをかけると、資産が打ち消しあって、ROE(自己資本利益率)になる。
(収益 ÷ 資産) × (資産 ÷ 自己資本) =
収益 ÷ 自己資本 = ROE
企業買収ファンドも、企業生成ファンドも、このレバレッジ効果を巧みに用いて収益を増大させている。
すでに、「イールドギャップ」や「ノンリコースローン」の説明の中で、この「レバレッジ効果」について触れている。
また、「ヘッジファンド」では、信用取引やオプションの形で「レバレッジ効果」が重要な役割を果たしており、またLTCMの破綻のケースのように、過度のレバレッジが金融不安を巻き起こした例もみた。
(3)分散効果
第二の秘密である「レバレッジ効果」が「歪」を増幅させる効果があるのに対し、「分散効果」は異なる投資手法の組み合わせにより、リスクを抑える ---つまり損をしにくくする---効果がある。
分散効果は、「資産を複数に分けるだけでリスクが減少する」という、人類最初のリスクコントロール手法である。
我々の先人達は経験則的に、このことを悟った。
現代になり、これを理論的に証明し、 「相関の少ない資産間において、アセットアロケーション(資産配分)を追求することが投資効果上有効である」ことを数式で示したのは、アメリカのハリー・マーコビッツ氏である。
この「ポートフォリオ理論」は「無裁定価格理論」と並び、現在の金融工学の二大支柱のひとつとなっている。
(4)ファンド・カルチャー
■プライベート性
投資家が好む運用期間やリスク許容度---どの程度の損失に耐えられるのか---あるいはすでに行っている運用で取っているリスクの量や質などが分かれば、これから行う運用でのリスクの取り方やレバレッジのかけ方、あるいは 分散の利かせ方などの判断がし易くなる。
このようにお互いの顔が分かっており、お互いが信頼できる間柄で、運用の中身まで突っ込んだ相談が出来ることが、投資の成功のためには極めて重要なのである。
■徹底した成果主義
通常、投資家から資金を預かる場合、ファンドマネジャー個人も自分の資金をその「ファンド」に投資する。
こうした資金を「セームボートマネー」という。
他人の財産の運用をする以上、自分も ”同じ船”に乗って、運用の世界という荒波に乗り出すわけだ。
そして、自ら難破(大損、あるいは最悪の場合には個人破産)するリスクを取るのだ。
もちろん、大波や嵐を乗り切り新大陸に無事着けば、そこでは「超過利益の20%相当」というご褒美(インセンティブフィー)が待っている。
■”なんでもあり”の発想法
「投資ファンド」のマネジャーたちは、投資家との”プライベートな関係”をベースにして、徹底した結果主義で評価されている。
こうした背景を考えると、ファンドマネジャーたちが、「世界中のあらゆるものが投資対象であり、あらゆる考え方が投資手法である」という思いに至るのは自然なことである。
つまり、彼らにとっては、運用の制約や縛りになるものは少なければ少ないほど良いのだ。
例えば、運用対象は、その市場に「歪み」があるか、あるいは自分の顧客である投資家が持っている他の資産との「分散が効くか」、という点だけが重要である。
欧米のファンドマネジャーたちが日本の金融機関と異なる最大の点は、彼らは節税を”悪”あるいは”後ろめたいこと”とは考えない、というところにある。
彼らの間には、運用成績を上げることに結びつく節税スキーム(仕組み)を考えることは 、税務当局との「知的ゲーム」ととらえられており、世界中の税制の違いは、例えば債券の価格のズレと同じで、収益を生む"歪”の一つと考えられているのである。
■無国籍性とタックスフリーへの執着
ファンドマネジャーたちにとって「投資ファンド」 に対する国家権力の規制や課税は、好ましからざるものとなる。
したがって「投資ファンド」の所在地も、運用の制約や縛りになるものは、なるべく少ない場所が選ばれている。
タックスヘイブン(租税回避地)においては、非居住者は、わずかな口座維持手数料を払うだけで
@租税支払いの免除
A個人情報の非公開(犯罪の嫌疑が証明されない限り
捜査当局にも非公開)
B為替取引報告の免除
C証券取引報告の免除
Dデリバティブ取引の制限無し
E信用取引などレバレッジ取引の制限無し
といったメリットが得られるのだ。
上記いずれもが、「ファンドカルチャー」を形作るものであり、運用を支える基盤なのである。
外資ファンドの驚異の利回りは、上記四項目のコラボレーションによって
生まれている。
短絡的にまとめれば、
@投資商品の値幅は小さくとも、確実に稼げそうな
歪(裁定価格)を発見し
A儲け幅の小さい部分は、レバレッジによって
資金に対する効率を上げ
B投資対象を相関関係が無いあるいは弱いもの
に徹底して分散することで、
リターンの”和”の成長と、リスクの”平方根”
の成長差を活用し、安定利益を確保。
C上記の追求を可能にする環境作りのために
無国籍化、徹底した成果報酬主義で、
絶対利益の最大化を実現している。
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